2010年10月5日火曜日

【書評】ゼロから始める都市型狩猟採集生活

ゼロから始める都市型狩猟採集生活ゼロから始める都市型狩猟採集生活
坂口 恭平

太田出版  2010-08-04
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社会という大きなシステムを前にして、持続可能で、自分サイズの自立した生活をどうやって送っていけばいいのか?ノマドに必要なエッセンスがこの『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』には凝縮されています。

建築学科を卒業しながらも、既存の建築のあり方に疑問を持って、筆者が0円ハウスと呼ぶブルーシートの家に暮らす人々にフォーカスした坂口恭平という作者による1冊。1978年生まれの筆者は、戦後の価値観が大きく揺らいだ1990年代に学生生活を送った私と同世代の一人です。

見た目だけが綺麗な都心のマンションに暮らすことが本当に幸せなのか?土地や水を「所有」・「管理」するという自明な事柄は、はたして真実なのか?

筆者が読者に投げかけるのは、都市生活を送る私たちにとって根源的な問いです。

実際に路上生活も体験し、交友を重ねたからこそ見えてきたホームレスの人たちの生活の知恵。
そこには、既存の都市のシステムの中で独立して生きる狩猟採集民族としての彼らのたくましさや、自分らしく生きるための道しるべが描かれているように思います。

この本を読み進めるうちに、都市生活の中でより便利な生活を送っている一方で、私たちはいつのまにかそのシステムに従属させられているのではないかという疑問が湧いてきます。
例えば、普段使用する電気について。日頃から仕事でパソコンを使っている割には、どのくらいの電力が必要なのかが分かっていません。スタバでエスプレッソを抽出するために必要な電力なんて意識したことがない人がほとんどでしょう。ワット数やボルト数は分かっていても、それに必要な電力を生み出すために、何がどのくらい必要なのかについてはまったく知識を持っていません。一方、0円ハウスに暮らす人たちは、電気の使用に対しても意識的で、自分の生活にどのくらいの電気が必要か実感として分かっているといいます。
「彼らは使う電気の量を把握して、それに見合うだけの電気を手にしている。いわば電気というものを食材のように扱っているのである。食べきれない量の食材を、突然必要になるかもしれないからといって家の中に保管している人なんていないだろう。それと同じである。なぜ電気はいつもつながっていないといけないのか、水道はいつでも出せるようになっていないといけないのか。ガスだってそうだ。それは使う分量がわかっていないからではないか。」pp.93-94
当たり前のように電気、水道、ガスが利用できる状況に暮らしているということは、それをなくした時の不安と表裏一体になっているように思います。そのため、根拠がよく分からないまま、請求書のとおり、光熱費を律儀に毎月支払っているわけです。

都市に暮らす人たちは、独立した自由な生活を手にしているように見えながら、実は既存のシステムに依存(従属!?)した存在でしかないのではないか?
そうした疑問が湧くと同時に、一抹の不安が頭をよぎります。

ここに書かれている「0円ハウス」での生活を私たちが実践することはほぼ不可能でしょう。
この本の役割は、当たり前に思われている現在の生活やシステムが必ずしも絶対的な真実ではないことを示すこと。そこから先は読者一人ひとりが考えていかなければなりません。