2010年8月17日火曜日

【書評】これからの「正義」の話をしよう-マイケル・サンデル

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学
マイケル・サンデル Michael J. Sandel 鬼澤 忍

早川書房  2010-05-22
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この本はハーバード大学で最多受講生を誇るマイケル・サンデル教授の「正義論」の講義を基に書かれたもの。マイケル・サンデルといえば、1980年代後半から1990年代にかけて、リバータリアン(自由奔放主義)とコミュ二タリアン(共同体主義)の論争で注目を集め、コミュ二タリアンの論客として知られていました。

この講義はハーバード大学の世界戦略の一環として、NHKでも放映されていたため、ご存じの方も多いでしょう。ウェブ上でも彼の講義について、すでに様々な感想が論評が書かれていますので、ここで敢えて詳細を述べるまでもないと思います。

私もテレビで久しぶりに彼の名前を聞きました(と言っても顔を見たのは初めて。国際関係論のジョセフ・ナイにどこか似ている)。

なぜ今頃マイケル・サンデルなのか?というのが正直な感想でした。

というのも、過去のリバータリアンvsコミュ二タリアン論争はすでに議論をしつくされたと思っていたからです。
ところが、本書ではこの論争から得た重要な視点が具体例とともに丁寧にまとめられていました。イラク戦争、金融危機、貧富の格差、エスニックマイノリティの台頭など、アメリカの社会では価値観が大きく揺らいでいることを象徴しているように感じます。

これらは多くは日本でも社会問題化していることもあり、今起こっていることを整理して考えを深めるのにちょうどいい本です。大学の教科書として、議論のきっかけを与えてくれる良書だと思います。また、大学を卒業してすでに会社で働いている人たちにとっても、新しい物の見方のヒントを得られるのではないでしょうか。

功利主義、リバータリアニズム、アリストテレス、カント、ジョン・ロールズなど、名前を聞くだけでも尻込みをしてしまいそうな面々の話が中心に進みますが、どれも優しく噛み砕かれており、初めて「哲学」に接する人たちにも分かりやすくまとめられていると思います。

個人的に思ったのは、原題の「正義:正しい行いとは何か?」の方が本書の内容を適切に示しているのではないかということです。読み進めていくとそのことが分かります。様々な難問が提示されている現在において、何が正しい行いなのか? このことは洋の東西を問わずいま切実に論じられていることと通じているように思います。

なお、マイケル・サンデルのハーバード大学での講義「Justice」はYoutubeでも一般公開されています。字幕付きなので、英語の勉強がてらこちらもあわせてご覧になってはいかがでしょうか。