2011年1月30日日曜日

【書評】ロングエンゲージメント なぜあの人は同じ会社のものばかりを買い続けるのか

今回ご紹介するのは『ロングエンゲージメント なぜあの人は同じ会社のものばかり買い続けるのか』


ソーシャルメディアを通じたコミュニケーションが注目される現在、広告やマーケティングがどう変化するのかを分かりやすくまとめた1冊です。

筆者の京井さんは、これからの広告は生活者(=顧客)との持続的な関係性を構築していくことが大切と一貫して主張。これだけ市場が成熟してモノや情報が溢れている社会では、広告の狙いも、奇抜なクリエイティブで注目を集める「アテンションの獲得」ではなく、企業理念や哲学に関心を寄せてもらって長期に渡る「共感の獲得」にシフトしているというのが主題です。

「いかに商品やブランドに愛着を持ってもらうか」という発想で、企業と生活者の間に持続する関係を築くことを意味する「エンゲージメント・マーケティング」の重要性を説いています。

特に『ロングエンゲージメント』の中で、私が最も注目したのは筆者の京井氏の次の指摘です。
「これまでのマーケティングは、生活者が合理性に基づいて論理的な行動をとるという前提に立って構築されていました。機能や価格や品質が少しでも違えば、少しでも良い方、安い方に向かって行動すると。
しかし市場が成熟した環境では、そのような差は生活者にとっては気にならないほどの微差かもしれません。さらに、ソーシャルメディアの浸透によって、生活者は自らの情報を選択し、共感によって行動するようになっています。よって、マーケティングにある生活者の合理的行動という前提も、もはや崩れつつあるのです。」(p.97)
つまり、従来のマーケティング理論や経済学を支えていた「合理選択論」の前提が大きく揺らいでいるということです。例えば、少し値段が高くてもディスカウントショップで、代金の一部がアフリカ地域の寄付金に充てられるミネラルウォーターを好んで購入したりするような事例に触れています。

近年では、オバマ大統領の選挙キャンペーンなど、「これのどこが広告なの?」というものが国際的な広告賞を受賞しています。こういうキャンペーンは「買ってください」というような広告表現を持っていません。どこからが広告なのかが不明瞭になっているわけです。

それに対して京井氏は「今や生活者とのコミュニケーションを成立させるための、あらゆることを広告と捉える必要が出てきたということでしょう。社会を動かすために、生活者を巻き込んで総合的に展開していく活動自体が『広告』なのです」と説明しています。(p.177)

マスメディアを通じて人々の一瞬の気を引く従来の広告から、企業理念に共感を持った生活者との関係を構築することがこれからの広告で大切になってくるとしています。そのためのTwitterやFacebookといったソーシャルメディアの重要性が高まってくると言うわけです。

ただ、筆者が言うように「共感の獲得」を主とした新しい広告がどれだけ発展するかは未知数です。広告の費用対効果を求める大企業が多い中で、定量的に効果を見せづらいソーシャルメディア・マーケティングがどれだけ受け入れられるか?

おそらく、従来型の広告と新しい形の広告が並列で発展していくのが現実的な落とし所ではないでしょうか。

いずれにしても、TwitterやFacebookといったメディアとどうやって付き合っていくのかを考えるきっかけをくれる1冊と言えるでしょう。

ロングエンゲージメント なぜあの人は同じ会社のものばかり買い続けるのかロングエンゲージメント なぜあの人は同じ会社のものばかり買い続けるのか
京井 良彦

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