2010年9月14日火曜日

【書評】新聞で学力を伸ばす 切り取る、書く、話す(斎藤孝)

新聞で学力を伸ばす 切り取る、書く、話す (朝日新書)新聞で学力を伸ばす 切り取る、書く、話す (朝日新書)
齋藤 孝

朝日新聞出版  2010-08-10
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今どき「新聞」?甚だしく時代錯誤で、世の中の空気を読みそこねている!?

タイトルだけを読んでそう判断したとすれば、この本が与えてくれるはずのもの多くのものを失うことになるでしょう。なぜなら、いまを生きる上で極めて重要なことを説いているのですから。

この本は、筆者が小学生~高校生の授業で実践した、新聞読解の授業の成果をもとに書かれたものです。子供が実用日本語力を伸ばしていくことの大切さや方法について書かれたものですが、読み進めるにつれてある感覚が芽生えてきます。それは、日本の国語教育で実用日本語力を修得できなかった現代の大人たちに向けて本書が書かれたものではないかというものです。

筆者は、論理的に説明するために必要な「実用日本語力」というスキルが、日本の教育でいかにないがしろにされてきたかを説いています。彼が初等教育~高等教育で実践して教えたスキルは、子どもだけでなく大人こそ身につけるべきだと暗に主張しているように思いました。これは、コピペ文化が身につき、主観にまみれたネットの情報にさらされることで、事実と主観を区別できなくなったウェブユーザーへの警鐘とも言えるでしょう。

ただし、大人と子供では、もちろん情報収集の基準は異なると私は感じています。子供の頃は好奇心の赴くままに幅広い情報を集めることが大切です。しかし、自分の関心領域の外に情報収集の網をかける行為は、一定のスキルを保持したビジネスマンが同じようにするのは非生産的です。むしろ、自分の関心領域を深めて、専門性を高めていくような情報収集こそが求められると思っています。そこに注意しながら本書を読んだ方が良いでしょう。

しかし、それにもかかわらず、筆者が本書で提案している新聞の読解方法は、ウェブ時代においても有効です。いや、むしろ情報が氾濫するウェブ時代においてこそ、こうしたベーシックなスキルが求められていると言えるのではないでしょうか。

筆者が提案する方法は誰でもできる簡単なもの。新聞記事をスクラップして、主題(メインメッセージ)、補足情報、その影響と意義を記事ごとにまとめるだけ。それに加えて、なぜ自分がその記事を選んだのか、そして何を考えたのか(意見)を簡潔にまとめます。

新聞記事から得た「事実」をもとに、事実関係を明確にして、自分なりの意見や見解を30秒で説明する。その繰り返しが生徒たちの「実用日本語力」を引き伸ばした実績について触れています。
私が会議や報告の場で感じるのは、そこが曖昧な人ほど説明が長く間延びしがちだということです。
筆者の言うところの「言いたいことを簡潔にまとめて発表する」スキル(それこを日本社会でいま必要とされる能力)が欠如しているわけです。

実は私も日経新聞のウェブ刊を利用して、ネット上で電子スクラップをしています。


筆者のように明確な方法論があるわけではありませんが、「事実」を積み重ねることの重要性はスクラップを継続すると痛切に感じます。単に「事実」をスクラップするという行為の繰り返しなのですが、毎日実践することで、その事実が立体的に浮かび上がってくる瞬間があります。そこに初めて自分の視点が生まれて、オリジナリティが際立ってくると思うのです。

ネットの空間はともすれば自分の都合のいい事実だけを収集して満足しがちです。新聞という一見古いメディアは、まだまだ現代でも十分に活用できることを証明してくれる一冊だと思います。